ニーリングリフト®商標登録 (移乗機器)
トイレなど移乗介助に活用できる機器の開発
日本では、介護を必要とする要介護・要支援認定者は年々増えています。
その反面、介護職員は慢性的に不足状態で、
それに加え腰を痛めやすく離職の原因にもなっていることが問題となっています。
足腰が弱った方のトイレ介助が大変なのは、立位保持、ズボンなどの着脱、お尻の清拭です。
体を支えながらの介助は、介護する側、される側の双方に負担がかかります。
トイレでの排泄ができなくなることにより、自信を失くし、自分の存在価値を見失いがちになっています。
それほど排泄ケアはその人の尊厳を守るうえで重要な介護です。
排泄ケアで悩んでいた父親の介護をきっかけに始めた開発です。
排泄ケア=お尻浮かす
お尻を浮かす移乗介助 「開発のヒント」
要介護者のおしりを浮かすには
上半身を持ち上げます。
要介護者、介護者にとって、身体的にも精神的にも大変負担がかかります。
持ち上げないでおしりを浮かすには
要介護者に、少し前かがみになってもらい、腕を引くと、持ち上げなくてもお尻を浮かせることができます。
(ある程度下肢の筋力があり膝折れしない人)
膝折れしてしまう人には
膝下にクッションなどの支えがあると、お尻を浮かしやすくなります。
膝折れしてしまう人が座るときは
膝の支えがなくなるので、足だけで体重を支えられず、膝から落ちてしまいます。
このようなことがないように、膝を支えながら椅子の方に押し上げることが大事です。
今までの内容を移乗機器に置き換え
介助者の手の代わりに胸乗せ台が水平に前後します。
乗るときは膝を軸にして胸乗せ台が水平に前に動き、足裏と膝と胸で体重を支えます。
座るときは膝を下から斜めに押し上げながら、胸乗せ台がもどります
この一連が、開発のベースになっています。
今まで開発した試作機
※ 後で気がついた手動タイプのきっかけ
モーターとは別に胸乗せ台だけ、前後にスライドする。
移乗機器開発の重大な転換期
スタンディングリフトが必要なのに、普及しづらい理由
※スタンディングリフトとは 筋力の低下や身体麻痺などにより、自力での歩行や立ち上がりが困難になった方をサポートする機器です。前方サポートタイプや後方サポートタイプなど、さまざまな種類があります。
これまで展示会などに出展し、メーカー、介護施設や在宅介護している方々からお話を聞くと、
いくら性能が良くても普及しづらい意見を色々聞きました。
その中で特に多いのが、「マンパワーで解決できる」 「全介助の人に使えない」など意見がありました。
それでも、これからの移乗機器を普及させるためには
・値段を安くしてほしい
・シンプルな動作にしてほしい
・軽くしてほしい
・入浴環境で使えるようにしてほしい
ニーリングリフト(移乗機器)を普及させるためには
・値段を安く
・シンプル
・軽量化
・入浴環境で使える
まず、入浴環境では防水や湿度対策が必要です。
また、軽量化と価格を抑えることも考慮する必要があります。
そこで、考えられるのが動力のモーターとバッテリーを外すことですが、これは非常にハードルが高いです。
しかし、時間をかけて一から見直してみると、人間の関節や骨の力学的関係を利用することで、手動タイプができると感じました。(以前の試作機で手動で胸乗せ台だけ前後にスライドしたとき、ヒントを得る)
モーターとバッテリーを取り外すこともでき、入浴環境でも使用可能です。
また、軽量化と価格の低下が実現し、動きもシンプルになります。
電力を使わず最小限の力で身体を動かす
新たな手動タイプのニーリングリフト「2025年に向けて制作中」
【サポートする人が、最小限の力で動かすことができ、要介護者も負担が少ない機器】
10段階の高さ調整できる
※動画では介護者のサポートを省略しています
ニーリングリフトの主観
1、人がやってはいけないことは、機械もやっていはいけない
私は父を介護する際、ずり落ちないように脇に腕を回して力ずくで持ち上げていました。
しかし、そのやり方が介護する人、される人に負担が掛かることを後から知りました。
脇には、重要な神経や血管が通っているので圧迫してはいけないとされ、松葉杖を使う時でさえ脇で体重を支えてはいけないとされています。
高齢者の皮膚は弱かったり、骨が脆かったりするため、脇で抱え上げたことで擦過傷や脱臼、骨折など大きな怪我を負った事例もあるほどです。
脇で持ち上げることは、機械であってもやってはいけないと考え直しました。
※ 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 介護ロボットポータルサイトより トヨタ自動車株式会社が移乗介助ロボット開発の説明の中に「本開発のロボットは、要介護者の体幹をホールドし、介助者が人手で通常している方式と同様の抱き上げ動作により、移乗介助を実現する。重要な血管や神経が通る脇を圧迫することがなく、下肢支持性がない要介護者をも、抱え上げることができる。」このような機器をトヨタ自動車が開発していましたが、開発中止 (開発中止の理由はわかりませんが、人によって介護の症状や、体系が異なるため、機械で抱き上げ動作をそれぞれの人に合わせて変えるのは難しいのではないかと思いました。)
2、シンプルで簡単な動作
移乗する姿勢は、立ち上がりの基本姿勢をもとに、介護者がこれまで行ってきた移乗の大変な部分を代わりにサポートする機器です。
この機器は移乗を自動で何でもしてくれるわけではありません。
介護者が柔軟に対応し、症状に合わせて優しく手動で平行移動を行うことで、無理なく移乗介護が可能です。
最初に要介護者が移乗機器の手すりを握り、胸と膝のクッションに合わせて、平行移動を介護者がわずかな力でサポートするだけの、とてもシンプルな動作のニーリングリフトです。
事前準備が少ないので、忙しい介護現場や、すぐ排泄したい高齢者や障がい者にとって、素早くできることは大きなメリットです。
3、自立支援型
足腰が弱っても、できるだけトイレで排泄したい、自分らしい生活を送りたい。
そのためには、日常生活で少しでも体を動かすことが大切です。
ニーリングリフトは、優しく体全体を連動させて動きます。
トイレなどで移乗動作を繰り返すことで、機能訓練にもなり、QOL(生活の質)の向上にも繋がります。
トイレが狭くて利用できない場合でも、ベッドの横にポータブルトイレを設置することで
おむつではなく座って排泄できます。
今はポータブルトイレも進化しており、水洗タイプ、排泄物をラップで包み込むものもあるので今後ポータブルトイレも進化して利用も増えてくると思います。
胸、膝、足裏に体重が分散され、体全体が動くので、指導のもとリハビリとして活用できると思います。
ニーリングリフト特許取得
日本、アメリカ、中国で特許取得
この機器は、すねの前面を支える部分が前に倒れると一緒に、上半身を支える部分も前に平行に移動するようになっています。すねの前面を支える部分とは別に、上半身を支える部分が前後に自由に平行移動できる仕組みを持っています。
乗るときは上半身と膝で体重を支え、座るときは胸乗せ台が水平に戻りりながら、膝を下から斜めに押し上げて座らせます。
このような動きをする移乗介助ロボットは他にはなく、日本、アメリカ、中国で特許が取れました。
日本 特許登録第6617997号
特許登録第6504588号
米国 特許11,833,093
特許11,491,061
中国 特許ZL201980015390.0
特許ZL202080048600.9
特に、日本とアメリカでは他に類似するものがないということで拒絶なしで取得できました。
ニーリングリフトの開発にあたって
国は、「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム」事業を2020年8月から開始し、介護ロボットの開発を支援しています。
私どももこの事業を利用して、九州工業大学、鹿児島県民交流センター内にある鹿児島県介護実習・普及センターにご協力いただき、専門の先生方から介護が時代にあわせて変化する中、移乗介助ロボットも変わらなければならないというアドバイスを受けました。
ニーリングリフトは安全上、色々クリアしないといけないため、まず、鹿児島工業技術センターで圧縮などの強度試験をしていただきました。
2022年には、アジア最大規模の国際福祉機器展(東京ビックサイト)に出展しました。
介護福祉関係者から、今までにない移乗介助ロボットの動きに驚かれ、「機械が人を持ち上げない方法で移乗できる」ことに良い評価をいただきました。
さいごに
父親の介護をきっかけに始めた開発ですが、世の中には素晴らしい移乗介助ロボットがたくさんあることもわかりました。
その中で私たちは「簡単」「優しい」「速い」をコンセプトにニーリングリフトの開発にあたりました。
試行錯誤を繰り返し、何台も試作機を作りました。
試作機ができる度に一番いいものができたと、わが子のように愛おしく思ったほどです。
介護現場の方からは「介護される人は介助を必要としている状態がそれぞれなので、一つの機械では対応できない」と言われます。
ニーリングリフトは動きがシンプルなので、介護する人のやり方一つで柔軟に対応できます。
今後いろいろな方に使っていただいて、意見をいただきながらさらに改良し、多くの方に「いいね」と言ってもらえるように努力して参ります。